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February 16, 2005

猛スピードで母は

■著者 長嶋有
■星 ☆☆☆

猛スピードで母は
長嶋 有

文芸春秋 2005-02
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■説明
芥川賞受賞作の「猛スピードで母は」と文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」2編収録されている。「待望の初文庫化!」の帯にひかれてつい書店で購入したのだけれど、帰宅してみたら先日ハードカバーをbook offで購入していたことに気づく orz 
 ま、それは良いとして、
双方似た感じの話でしたが、私は「サイドカーに犬」の方がなぜか好きでした。

■感想
私が通常本を読んで、「面白かった〜」と感想を述べる本は、大抵本を読んだことにより、「喜び」「悲しみ」「怒り」「恐怖」「楽しみ」「不安」など感情の波を感じさせてくれて、しばし別の人生を体験させてくれるときだと思う。
 この本は題名や、文庫本の裏の紹介を読んで持つイメージとまったく違う内容の本だった。「猛スピードで母は」と聞くとどんな風なイメージを皆もつのだろう。 イケイケおばちゃん?

多少ネタバレ
双方とも、子どもの目から見た自分の境遇を淡々と書いているという印象。子どもは「怒り」も「恐れ」も「よろこび」も特に感じるでもなくただ淡々と環境を受け入れて見ている。 しかし、その境遇は「父がいて・母がいて・典型的な家族で」というのとはチョット違う。
 かたや 「母が家出」し、「見たことのない父の友だちがどやどやと日常生活にはいりこんでくる」という生活。もう方や「シングルの母の力強い生き方」。子どもからみると、大人は強くてしっかりとしているものなのだけれど、ふとしたときに大人が見せる弱さ、感情の気配がうまいと思う。それは大人たちが決して子どもたちには悟られないようにしようとしているものだけれども、何かの弾みにみせてしまったもの。でも、子どもにはやぱり気づかれることはない。子どもからみると只不可解で印象に残るだけ。

全編を通して感じられる、「幸せでも不幸でもない感じ」は妙に現実感がなく読み手を不安にさせる。主人公が子どもであるだけに、気づかないなにかがありそうに思う。でも見えそうで見えない。ちらりと見える大人の感情のカケラはなぜだか少しほっとする。
何かに怒っているわけでもなく、何かにかなしんでいるわけでもなくただ淡々とした話である。
感情をジェットコースターにのったようにゆさゆさ揺さぶられる本と、この本は別の種類の本だとおもう。
それはそれで、恐怖でもなく喜びでも怒りでもなくなんでもないところを ただふわふわとどこに流されていくのかわからない半透明のシャボン玉にのって旅でもしているかのような気分だった。
この「ただ淡々とした夢ともなんともわからない雰囲気」が 私にこの本が与えてくれる「別の人生体験」なのだと読み終わって少ししてから気づいた。

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