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October 03, 2007

ひとり日和

■著者 青山 七恵
■星   ★★

ひとり日和
ひとり日和青山 七恵 河出書房新社 2007-02-16売り上げランキング : 10145おすすめ平均 starstar観察眼の鋭さstarごく平凡な感じstar第一作目よりも良いですね。Amazonで詳しく見る by G-Tools

■説明
 わたしは、東京に出てはじめて家族から離れて暮らすことになった。とはいっても、家族というのは母しかいない。中国へ行くからついてくるかと聞かれて断ったのだ。暮らすのは猫の額ぶちがたくさん下がっている鉄道沿いのおばあさんの家に下宿という形。おばあさんは母の年賀状を出す程度しかつきあいのない親戚らしい。

■感想
 最近こういう女性を書いた本が多いなと思うし、流行りなんだろうとも思うけれどどうも好きになれなかったし、おもしろくなかった。やる気もなく目標もなくテキトーに生きている女性の話。

 やっぱり年代が違うのか、つらつら私が彼女くらいの年だったころを思い出しても、彼女の気持ちがさっぱりわからない。まったく共感しない。それどころか、ものすごく居心地が悪い。 そういう私の気持ちにどうにか救いがあるとすると おばあちゃん「吟子さん」の存在かもしれない。 何事にも頓着しないようでありながら、残った人生を気ままに生きている。実際主人公も、当初は異星人でも見るように接していた吟子さんの生活を内心うらやましがったり嫉妬したりしているのであろうと思われることもあるし。

 アマゾンの書評ので星が少な目な結果を見て妙に納得しつつ、「芥川賞って?」と思ってしまった。その上に「村上龍と石原慎太郎が絶賛」だなんて書いているから、どんな絶賛具合だったんだろう?と突然興味がわいてきた。

 もしや、選考委員がもう若いころをとうに過ぎた人ばかりで、「イマドキのわけわからん(と自分が思っている)若者」が「自由気ままで楽しい老人」をうらやむ図を見て「そうだそうだ」と 主人公ではなく老人側の気持ちで読んだとか???
 文が上手っていう評もあったけれど、そんなにいうほど上手いだろうか?  「上手な本」がそのまま「おもしろい本」につながらないというところがミソなのかもしれない。しかし、「上手さ」があったとして、上滑りしていたらなんにもならないじゃないですかいと思ったりもして。
 
 ま、元気の良い母と、自分の人生をマイペースで生きている吟子さんを、根無し草状態の自分が見る。その視点の変化。というあたりがあえていえば面白かったのかな。

 あまりにぶぅぶぅ言いながら読んでいたので、pon1には「そんなに嫌な本は読むのをやめた方がいいんじゃない?」と言われてしまった。蹴りたい背中は、そこそこ面白く読んだんだけれどねえ。

 芥川賞の書評で検索したら、面白いブログにたくさんヒットした。

石原慎太郎氏絶賛!? 芥川賞「ひとり日和」(怒りの書店員rainyの怒涛の読書ダイアリー)

……てなわけで、ワタクシの中でこんな公式が出来上がってしまいました。 石原慎太郎氏のけなす作品は面白い!!
ところで、近頃の純文学の方はおしなべて(といってテメーはいつの時代のことを知ってるんだ! とお叱りがきそうですが)どーも大人し過ぎる気がするのが、残念っつーか歯がゆいといいますか。誰か一人位、「うっせージジイ! テメーのような石頭にオイラの文学のスゴさが分かってたまるか!」って暴れるまくるような元気のいい奴いないのか!? ……ま、ヤンチャを表に出すことなく、ひたすら悪意を筆に込めるからこそ、いい小説が書けるってとこもあるんでしょうけどね……。
と。 パソコンの前でニヤリと笑いながらパチパチと拍手をしたくなってしまいました。

第136回芥川賞選評(琥珀色の戯言)
選評をかいつまんで載せてくださってます。

もしかしたら、選考委員の高樹さんのコメントにあるように、選考委員の大ベテランの皆様が、「元気な高齢者、疲れている若者」という内容を真に受けて舞い上がってしまっただけなのでは……とも思えてきます。
 まさに。そう思えますねー。

第136回芥川賞 青山七恵「ひとり日和」受賞(飴色色彩日記)

「ニヒリズムに〜」とかちょっと深読みしすぎでは。 要するにただ単に「やる気がない」「目的がない」主人公だし、そう言えばいいのに・・・。

うぉぉぉ。まさにその通り!そう思います。

幼稚な主人公、甘え、そして乾いた恋愛。 選考委員たちには若い人がいないけれど、もしかしてそれらを「現代的」と感じているのだろうか。

そだそだ! 。

と今回は人様の感想でお茶を濁させていただいたけれど、読んでも明日には忘れてしまうような本でした。 だからこそ書いとかないとまた買ったり読んだりしてしまうものね。 備忘録としてとりあえず記録をつけておかなきゃ。

November 25, 2006

【多少のネタバレ】恋する文豪

注意)多少のネタバレ

この記事は ネタバレを含む感想です。本の冒頭のみ知りたい方は、下の ■説明 の部分のみお読みください。

■著者 柴門 ふみ
■星   ★★★★ 

 

恋する文豪
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■説明
 マンガ家の柴門ふみさんが、良く知られた小説を読み解くという趣向の本

■感想
 本を手に取った理由のひとつは、かわいらしい椿の表紙だったから。 柴門ふみさんの名前はモチロン知っていたけれど、リンク先のwikipediaの漫画作品一覧をみてみると、意外にきちんと読んだ物がなかったことに気づいた。
小早川伸木の恋を途中まで読んだ位。 ドラマになった東京ラブストーリーは途中から見た。 カンチのアホー とつぶやきながらわりと一生懸命見た記憶がある。典型的なすれ違い物語りだったような。同期の友達によると、原作のリカは意味不明でヘンな女だったと聞いたので、あらためて読むのはよそうと思ったりしたことを思い出した。

 その柴門さんの本。

いやー。面白かった。今まで、「有名な本だけれどなあ」と冒頭から2ページくらいよんで、「やっぱ。やめとこ」と読めなかった本がいくつもあるのだが、柴門さんの語りは「そうなのよねえ」とつい頷くように親しみやすい。

たとえば、どうも苦手な 森鴎外の舞姫。 

 石炭をばはや積み果てつ 冒頭第一行から行き詰まってしまった。「石炭をば」って何?あるいは「石炭をばはや」なわけ?『広辞苑』で「をばはや」をひいてみようかしら。 石炭、をば、はや、積み果てつ「石炭をすでに積み終わってしまった」のだと気づくまでに数分間ついやしてしまった。

 もちろん、才媛の柴門さんが 「をばはや」をホンキで広辞苑でひこうと思われたワケはないのだけれど、こういうちょっと大げさなオフザケはつい「フフフ」と読んでしまう。

 そうなんだよなあ。 石炭をばはや積み果てつ なんていわれても情景がすぽんと頭に浮かぶまでに推理が必要なんですわ。

 川端康成の雪国はあまりにも有名。 でも、これも私は数ページで挫折した記憶があるのです。

 実際読んでみると、イメージとは正反対の超クールでシュール、アバンギャルドな作品であったのだ。 川端康成が新感覚派と呼ばれるのはなるほどである。非常に感覚的で時間と場所が前触れもなく飛躍するので、難解といえば難解だ。しかもテーマは甘ったるい恋愛などではなく人間の<得たいのしれなさと存在のはかなさ>なのであるから。

こんな風に冒頭からバッサリと分析していただけてしまうと、私としても、 「なーるほどー。過去に雪国を読もうとして挫折した私もフツーだったのかー」と妙に安心したりする。(^^;)ゞ

読んだことがある本は、もう一度読み返してみようかと思い、読んだことない本は「読まなくてもよかった」と思ったり「へえーそんな本なのか」と妙に興味をそそられたり、柴門さんの才能を感じました。

 どの本に関する章も面白かったのですが、「ヘエー」と思ったのは、 現都知事である石原慎太郎の『太陽の季節』もありました。 11月15日に6年間で2億四千万も使っていたという話があったそうで、その記憶も新しいところで、「そういえば、『太陽の季節』も有名で名前は聞いたことがあるけれど、読んだことないなあ。」とおもいつつこの章を読んだのですが、よんでみてびっくり。こんな話だったとは!
 

 人生において、何を喜びと感じるかで、人間を4つのパターンに分類できると最近ある人から聞いた

と、はじまって、4つのパターンは <王様タイプ><学者タイプ><職人タイプ>そうして最後が、『他者をやっつけることで快感を覚える<軍人タイプ>』だったのだそうだ。

 とにかく他人をコテンパンにやっつけることでしか気持ちよくなれないので、平和な世の中ではこんなはた迷惑な性格はない。和を以って尊しと為すとは真逆の、和を乱して大威張りの困った人たち。

 いやー。太陽の季節ってそういう筋だったのか。と読んだことない私は吃驚!

人は、快楽に支配される。他人を支配することでしか快感を得られない人間は、一生変わらない

 と登場人物の竜哉についてバッサリと柴門さんは書いてくださっているが、なんとなく 私はなるほどねえと妙に納得してしまいました。

 今年の8月31日に発行されたばかりの新しい本なので、冬ソナやらヒルズ族やら最近聞いた話題もおりまぜられて、特に読むならばこれらの言葉が新しい旬のうちが良いかなあ。などと思いました。

June 19, 2006

【ネタバレ】蒲生邸事件

注意)多少のネタバレ

この記事は ネタバレを含む感想です。本の冒頭のみ知りたい方は、下の ■説明 の部分のみお読みください。

■著者 宮部みゆき
■星   ★★★★ 

蒲生邸事件
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■説明
孝史は受験のために都内のホテルにやってきた。受験といっても、予備校の受験。ホテルは父が手配してくれたのだけれど、ぱっとしない。壁にかけられた写真から、古くは蒲生邸と呼ばれていた屋敷が建っていた場所だと知ったが、ホテルには今はその面影も無いのだった。 そのホテルでの夜。孝史はホテル火災にあってしまう。

■感想
 裏表紙で「SF」とあったので期待はさほどしていなかった。でも、予想を裏切って面白かった。 日本SF大賞をとっただけのことはあるな。。と思った。 

 この本で、ものすごく大きな印象を与えるものが「歴史」。歴史に対して多少の変更を加えようとしても大きな流れは変えられない。結局つじつまを合わせて歴史は流れたい方向に流れていくという話を読んで、常々「自然」に対して人の力の及ばなさを感じていると同様に「たしかに歴史というものもそうかもしれない」と ふと思った。

 たとえば、最近の世の流れ。皆がそれが正しいと思っているわけではないはずなのに流れ始めたその流れを変えることができないもどかしさを思った。しかし、まったく歴史に太刀打ちできないわけではない。最後の最後、確かに大筋では変えられないけれど、小さなことは変わっている。そういう救いがあるところが宮部みゆきの本の好きなところかもしれない。

 絵本には「納得のいく結末」が必要という説があるらしいけれど、虚構の話であるならば、大人の本でも読み終わった後に底なしの奈落に突き落とされるしかない結末よりも、一縷の望みがある結末の方がやっぱり好きだ。

さて、その物語の本筋以外のところの話だ。舞台は昭和11年2月26日。2・2・6事件のあったその日を中心に展開される。
 現代から昭和11年にタイムトラベルした主人公は当時の社会を現代人の目で見る。

 仕事の多い時代だったろうなと、孝史は考えた。もちろん、選り好みはできないから大変だろうけれど、それでも、働くことの意味が、孝史のいる「現代」よりも、もっとずっとずっと素朴ではっきりしていただろう。煙草1箱でも、人の手を介さねば買うことのできない時代には、煙草一個を打って釣り銭を受け取ることにも、それにふさわしいだけの重みがあったのだ。

   というところを読んで、なるほどと現代を振り返った。煙草は自動販売機で買える時代。人と話すということはそれなりに相手の気持ちを慮る必要があるということ。そういう煩わしさを考えるとボタン一つを押せばコロリと煙草が出てくる自動販売機は本当に楽チンだ。時候の挨拶もしなくて良いし、不機嫌ならば不機嫌なまま買えばよい。  そういう時代になったから、煙草を売るという仕事も「自動販売機ごときにできる仕事」になりさがってしまった。 自動販売機の代わりなので、買いに来る人も売り手とコンタクトを取ろうとしない。煙草名だけつげてお金を放り投げる人もいるだろう。 売る方も売るほうで、余計なことをしゃべらずに煙草を差し出せばよい。下手に話しかけると「鬱陶しい」と思われてしまうかもしれない。 人と人との意思疎通ができない世の中になってきているなと改めて思った。自分のことさえ考えていればよい世の中だ。   便利さを追求していったために、常日頃からいつも人のことを考えて生きていた世の中から、現在は自分のことさえ考えていれば良い世の中になりつつある。 そうして、人の気持ちを考えずに済む世の中になりつつある。 だから、そういう環境で育ってきた人は自己中になっていくのかもしれない。

 他人とのかかわりというのは、煩わしいものであるけれども、反対にかかわりがあるからこそ得るものも多いものだ。
 私はあまり、社交的ではないけれど、直接・間接含めて人と関わってこそはじめてわかることは多い。 煩わしい、面倒なものも結局は自分のためになっているということなのだろう。

 便利になりすぎて、人同士のかかわりが薄れてきた世の中だからこそ、人とのかかわりを見直してみる必要があるのではないかと思ったのだった。