■著者 山田宗樹
■星 ★★
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■説明
ごく普通の大学生 川尻笙の下宿に、父が突然やってくる。存在さえしらなかった伯母の松子がなくなったとのこと。殺人事件だという。その遺骨を持ってついでに寄ったのだという。抜けられない仕事があるという父の依頼で付き合っていた明日香と二人で松子伯母の暮らしていたアパートの片付けを頼まれた俺。
■感想
上下2巻の本。「嫌われ松子の一生」という題名とこの表紙のセンスのよさが気になってつい購入してしまったのだが、松子さんの嫌われ具合は期待はずれだった。思っていた本と違ったという一言。買ってしまった本をどうにか片付けたいと必死で読んだ。最後まで読んで最後の最後にたしかに「ううむ」とうなって考えさせられたけれど、ただその最後の謎解きのためにコレだけ長い物語を読む必然性があったのか。いや、このドロドロ人生を理解するために必要だったのか?
「頭が良い」と何度も書かれている松子は、子どもの頃から成績優秀で大学を出て中学校教師になったという設定。ところが彼女がとる行動はいつもせつな的で私からみると「ぜったいにありえない」という選択。どういう思考過程でそういう結論に行き着くのか。自ら望んだかのように何でそこまで自分で転落するほうを選びますか?と思いつつ読んでしまった。
松子の心情を女性である私が理解できないというのはやっぱりその辺はうまく書けてないんじゃないかなあ。 映画化されたらしいけれど、映画化の目的は多分ヒロインが脱ぐというただそれだけじゃないのかなあと思ったり。なんというか プチエロ路線?
最後の最後の考えさせられた部分は以下しかしはっきり言って、これを書いたらおしまいという強烈ネタバレ(ここからマウスで反転して読んで)
松子は、自分は悪くなかったにもかかわらず人生の選択でことごとく転落する方を自分で選び、そこを突っ走る。その結果、服役することになり、「法律」という基準からも「モラル」という基準からも外れた人となってしまっている。 プロフィール欄で紹介されたら「最低」と言われてもおかしくない人物である。
その松子を殺害したのは、夜中の公園で遊ぼうとしていた大学生たち。浮浪者かと思い暴行を加え内臓破裂で松子がなくなる。 母親たちは「こんなことで、あの子の将来に傷がつくなんて」「これは事故なのよ」といい、息子や娘たちは異口同音に 「死ぬとはおもわなかった」と面白半分で人を死にいたらしめたことに対して責任を感じていない様子。
人生の選択でありそうもないほどマイナスの札を引き続けて死んだ松子、自分の中の正義を突き通した龍(上では触れていないけれど)、とその大学生の対比について考えさせられた。
最近、自分が冒した罪について、「知らなかった」「わからなかった」と言えば刑が軽くなる。許してもらえるというような風潮なように思える。 物語の中の保護者からみたら、松子は最低な人生を歩んできた女であり、自分たちの子どもが冒した罪は輝かしい人生の中のほんの小さな間違いなのかもしれないが、松子は面白半分で人をあやめたこともなく人を貶めようとしたわけではなく ただ選択をあやまっただけで彼女なりに誠実に生きてきた結果がコレであったことを思うと、複雑な思いがする。
「法に触れないから良い」という風潮を感じる今日この頃最後の最後で少し考えさせられた本ではあった。
欲をいうと、前半のドロドロ描写はもう少し少なくても、判決文にあるように中学教師になる前までの松子の心の動きやら人格形成に触れてあればもっと説得力があったのではないかと思う。
「嫌われ松子の一生」という題名は買わせるという意味では成功していると思うけれど、内容とはどうもバランスが悪いような気がするのだけれど。それは私だけだろうか。