■著者 乃南アサ
■星 ☆☆☆☆
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■説明
深夜のファミリーレストランに、普通のサラリーマンに見えない男が入ってきた。瓶ビールをトレイにのせて「お待たせしました」といおうとしたとき、突然男が炎上する。直木賞受賞作。
■感想
読み始めて当分は、リアリティのある描写が特徴的だった。主人公の音道貴子が登場するあたり、芳香剤、引っ越して以来手をつけてない段ボール。ひとつひとつ読み進めながら「あるある」と音道貴子に同化していく。途中まではいままで読んだありがちな推理モノのような感覚で読み進めていたのだ。
身の回りのものに対する感覚の同化は意識していたのだが、物語も中盤、後半になるにつれ、彼女自身に少しずつ自分が同化していき、一気に読み終えてしまった。
まずは男社会に入った女性。この感覚、たぶん同じように男性と同じ仕事をしていた人は感じたことがあるだろうと思う。なにごとも「女だから」ということで最初に差別される社会。 わかりすぎている。どうしてこんなことがわかるんだろうと、裏表紙を見直してみたら乃南アサさんはどうやら勤めの経験をお持ちのようだ。なるほど。
以下ネタバレ
誰にたよることもなく一人で生きていくことを一度でも覚悟したことがある人ならば貴子の孤独な思いはきっとわかるだろう。そうして、中盤以降の疾風の姿と彼女の生き方のオーバーラップが素晴らしい。生き生きと野をかける疾風の姿は、いかにも私がこの目でみていたかのように記憶に残っている。 貴子が疾風に惹かれる思い。理由はくどくどと書かれていないけれども、貴子に同化して読んでいる読者にはごく自然に受け入れられる出来事だと思う。
私も、貴子と同じ時間を過ごし、疾風に惹かれたひとりである。私も疾風にあってみたかった。
本気でがんばっている女性に。ぜひオススメの一冊。