■原題 たそがれ清兵衛
■監督 山田洋次
■星 ☆☆☆
たそがれ清兵衛
■説明
娘(岸恵子)の声で、父清兵衛(真田広之)について語られる。
妻を結核でなくし、娘2人と 惚けてきた母を養うために たそがれ時に飲みの誘いも断って家にまっすぐ帰る父。 同僚は「たそがれさんは」と茶化すのだった。そんな単調な毎日が変わったきっかけが、友達の妹で幼馴染の宮沢りえが嫁ぎ先から戻ってきたこと。
■感想
藤沢周平の本は、あまり読んだことがない。サービス精神旺盛な池波正太郎の剣客商売を読んだあとだったので、静かで淡々とした語りが印象的だった。
この映画を見たときに、その静けさがうまく表現されていると思った。
宮沢りえ(綺麗ですね)が出てくるまでの押さえた光りと色。 効果的に使われている鶏の声。コッコと聞こえてくることで静けさが引き立つ。 淡々と進む物語も彼の本の雰囲気とあっていると思った。
ところが、検索してみると、本の「たそがれ清兵衛」とは別物と考えたほうが良いとのこと。
たしかに原作欄にそれ以外に2つくらい題名が書いてあったからシナリオはあらたに書き直したのだろう。
早速読んでみたが、本の清兵衛さんには娘も惚けた母もいない。 仲むつまじい夫婦の物語だった。
宮沢りえ。この映画で賞をとったので見たかったのだが、うまくなりましたね。
彼女の舞台も映画もみたことがあるのですが、素っ頓狂でなってないと思った昔からずいぶん女優として腕をあげたと思いました。決して順風満帆ばかりではないときもあったわけですが、彼女の前向きな努力が実を結んでいると思います。
真田広之。舞台や映画での剣使いは もうベテランですね。安心してみていられます。
配役の妙だったと思います。
さて、この映画。ニセオヤジの私から見ても、中年以降のまじめなおじさんたちがぐっとくるような映画だなあという感想を持ったのですが。ネタバレになるので 続きを読むからご覧下さい。
一応色も変えておきます。これを読んだだけで、映画の内容全体にかかわることがかいてあるような大幅なネタバレですから、これから映画を見ようと思う方は読まないほうが良いと思います。
宮沢りえの役柄は原作では出てこない。この映画ではじめて出てきた存在です。子どもの頃の淡い恋心を告白されます。妻は亡くなっている。相手は夫と別れたばかり。結婚というのには何の障害もないわけです。 相手は出戻りといっても、まだ輝くばかりに美しいし、優しく、聡明な女性です。子ども達もなついています。母も彼女とうまくやっていけそうです。
しかし、貧乏な侍の家の生活の苦しさは体験させられない。オレの禄では食わせられない。苦労をさせるのが目に見えている。 大切に考えているからこそ断ってしまう。苦しい思いをさせたくない。
勤め先は役所。皆には情けないやつだと思われているし、それで良いと思っている。
今は娘達の成長をみるのが楽しみだ。 しかし、そういう彼に 命令が下るわけです。
有無を言わさず 「ヤレ」です。断ろうとしたのに、断れないのです。
この辺がサラリーマンの悲哀に重なるわけで、きっとコレを見ていたお父さんたちは、そうなんだよなあとぐっと来ると思います。
初恋の人からの告白。そうして、それからどうなるのか。 この後も オヤジの心を鷲づかみにするような 話が続くわけです。
ロマンチストなおじさんの心をつかむだろうなあ。とニセオヤジながらも思った映画でした。
検索すると「何回も見て妻に呆れられている」という人がいましたが、う〜ん。 それはロマンチストすぎ。奥さんが気の毒です。 そういう方はぜひ、原作の 「たそがれ清兵衛」を読んでください。
多分奥様はこちらの方が好きだと思います。
オヤジの心を鷲づかみといっても、これにはきわどいシーンはありません。そういうのがない、「精神的なもの」だからこそ、おじさんのための御伽噺が際立っているような気もします。