August 2007 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

March 18, 2004

アナザヘヴン

著者 飯田 譲治 , 梓 河人
 ★★★★
アナザヘヴン〈上〉角川ホラー文庫
アナザヘヴン〈下〉角川ホラー文庫
4043493010.09.MZZZZZZZ.jpg

内容
 最初からまったくのSFで始まる。キーワードは「悪意」。その悪意を求めているものは自分の住処?をさがしているらしい「できることならば、もっとも平和そうな所の、もっとも平和そうな巣が望ましい。自分の与えられた才能を抑えこみ、自分を善良なる者と信じている愚かな者の住処」を探しているようだ。
そうして、残虐な事件がさっさとはじまってしまう。容疑者はどうやら女らしい。

感想
一気に上下巻読み終わってしまった。最初は説明会に行ったときの待ち時間に読むのに丁度良いかと、軽いものを選択したつもりだったのだが、飯田譲治のほかの本を読んだときのように止まらなくなってしまったのだった。
陰惨で、いかにも現実にありそうだったりすると気分がわるくなるのだが、まったく自分の予想を超えていた物語だと現実味がなく さっさと描写を素通りできるという感じだ。
この本は私にとっては後者であった。

 この本はナイトヘッドの飯田譲治と新たに梓河人の共著となっている。
解説から知ったことだが、テレビドラマ 「沙粧妙子 最後の事件」や「リング」を映像化した際の脚本も飯田氏ということ。

■意識していない悪意

少女時代にカトリック系の学校に通っていた私の母は、聖書からの引用をしたり、賛美歌などを歌うことも多かったので、キリスト教を信じているわけではなかったのだが、私には中途半端にキリスト教は身近なものだった。有名なフレーズ「人はみな罪びとである」というのも小さな頃から聞いていた言葉だとおもう。
意味を問うと、母も少女時代の知識だと思うが、たとえば生きていくために生き物を消費しなければならないこと自体、他の生き物の生命で生かされている。人間はそういう生き物であるということなどを話してくれた。

そのときは、子供だったので、それで納得したわけであるが、今になってその罪を考えると、かなり難しいと今更ながらに思う。
 たとえば、動物を口にせず植物だけを口にするベジタリアンという人達がいるが、植物もまた生き物である。生命を食べてそれを栄養にして生きているということ、他の生き物によって生かされているということには動物を食べることと変わりがないことだと私には思える。本当に生物を食べることが罪なのか、どこからどこまでが罪なのか。

 ここからはベジタリアンの理念がきちんと分かっていないので仮説になるけれども、もし、ベジタリアンが「動物を食べることは悪」という理由で菜食を選んでいるのであれば、動物の命と植物の命の差(重み付け)はどう決めているのだろうか。
 動物の中にも、肉食動物と草食動物がいるのだが、では草食動物は善で肉食動物は悪なのか。
命を永らえるためにではなく、単なる欲望(たとえば毛皮とか美食とか)のためだけに動物の命をとることを悪としているのであれば、食べるわけでなく、狩猟本能のおもむくままに小動物をいたぶるネコは悪なのか。

 反対に、動物だって動物を食べるし、戯れに生命を奪っている。だから人間は善なのか。

こういうことは、考えても考えても答えが出ないものであろうと私は思う。

たとえば、あなたが嫌いな人の嫌いな理由をいくつか思い浮かべてみる。沢山あげればあげるほど、掘り下げれば掘り下げるほど、自分とその人の差がなくなってくるように、自分もそういう面を持っているような気にならないだろうか。そうして、その差が明確に定義できないことに気づくことがないだろうか。
 (とにかく自分が善で相手だけが絶対の悪だと定義できる人は 失礼だがかなりのエゴかもしれない)

多少ネタバレがあるので隠してみよう


この物語の冒頭から出てくる悪意にひきつけられるものが最初にとりついたのが思いもよらない人だった
それが語った彼女の内面は
「-略-世間から自分がどのくらいいい子に見えるかってことが一番大事だった。それがあの女の価値のすべて。-略-」

そんな風に、人間の矛盾を次々に「おまえだって悪いだろう」「悪意をもっているだろう」と さまようという設定。

最後まで一気に読んでしまったのは、このテーマについてどう決着をつけるかというところへの興味がそうさせたのだろうか。
 
 読後感は悪くない。こういうテーマについて希望がなく打ちひしがれる結末の本は苦手だ。
ナイトヘッドもそうだったが、嫌な気持ちにならずに読み終えられるこの本を私は面白かったと思う。

 細かい設定をつくと、矛盾や突っ込み不足もあるのはあるだろうが、そういうことを全部抜きにして、この本の最後への結びは私にとって好ましかった。
漫画やテレビドラマの類だと思って軽く読んで欲しいと思う。 

以下は激しいネタバレ結末に関わる部分が書いてあります



とはいっても、昔から哲学者やそのほかの人々がそれなりの唯一無二の結論にたどりついていないように、この物語にもきちんとした悪意に関する決着はない。この結末を「甘い」と見る人も多かろうとは思う。

続編もあるようなので、それも読んでみようかと思っている。果たしてどうかな。

そうそう。この本の中に出てくる映画「ブレードランナー」は私が大好きな映画だったので、そういう面でもとても楽しめた。この映画のテーマは 「レプリカント」という人造人間の人格や命についてだととらえるとかなりこの本のテーマと近いところにあるように思う。
 悪意を求める物体の超人間的な能力も レプリカントを思い出す。

コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?